蜜月は始まらない
ドキリとした。

今まで自分も、考えなかったわけじゃない。

けれど考えないように、意識していたことだ。

……遠征で家を出ているときに、もしかしたら本命の人と、なんて。

こんな懐疑心、相手にとって失礼以外の何ものでもないってわかってるのに。

私は根本さんに気づかれないようやわく下唇を食んでから、ニッコリ笑ってみせた。



「えぇ? たしかにモテるだろうけど、錫也くんは真面目な人だから大丈夫だと思うけどなー」

「うっ……軽率に話振ったら大ケガしましたわ……ごちそうさまです……」



私の返しを惚気と捉えたらしい根本さんが、胸やけを起こしていそうなグロッキー顔で会話を強制終了させた。

彼女の反応はちょっと想定外だったけど、この話題が続かなかったのはありがたい。

そうしてコンコースに出たところで、私たちは別れるため立ち止まる。



「根本さん本当にいいの? お友達もぜひおいでって言われてるのに」

「お気持ちはすごーくうれしいですけど、今回は遠慮しときます! どうぞふたりきりで存分にいちゃついてきてください!」

「い、いちゃついてって……」



思いがけない惚気をくらうと弱いけど、自分がからかうのはいいの?!

ニヤニヤ笑いの根本さんのセリフに、つい顔が熱くなった。
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