蜜月は始まらない
#6.月よりも、宝石よりも
「尚人さん、ちょっと聞いてもいいですか」
「んー?」
遠征先から本拠地に戻る新幹線の中。
俺がポツリとつぶやいた声を拾って、隣の座席の尚人さんが耳に入れかけていたイヤホンを持つ手を止めながら軽く首をかしげてこちらを見る。
その動作を許可と捉えた俺は、話を続けた。
「なんか、チーム内で華乃絡みの俺へのイジりが日に日にうっとおしくなってる気がするんですけど。俺の思い過ごしですかね」
「紛うことなき事実だろ。今さら気づいたのか?」
「いや、認めたくなかったんで」
言いながら自然とため息が漏れる。
【むつみ屋】での顔合わせ、そしてつい10日ほど前にあったサプライズ観戦を経て、チームメイトたちからのからかいに拍車がかかった気がしていたのだ。やはり考えすぎではなかったか。
真顔で肯定した先輩へ、俺はさらに見解を乞う。
「何なんですかね……俺結構塩対応してるはずなんですけど、一向に飽きてくれないんです。この場合、どうすれば被害が抑えられますか」
声音も、おそらく表情もうんざりしている俺を見て、尚人さんが可笑しそうに口角を上げた。
「すり減ってんなあ、錫也。俺の経験論で言えば、嫁ネタでからかわれたときはあくまで淡々と、求められてる以上に惚気とけば砂吐きそうな顔して勝手に離れてくよ。隠そうとするから面白がられるんだ」
「惚気る……って、たとえばどんな?」
「いろいろあるだろ。寝顔がかわいいとか」
「……寝顔」