蜜月は始まらない
この家に帰って来るとき、いつも少しだけ不安になる。
彼女は今日も、ここにいるだろうか。俺のもとから、去ってしまっていないだろうか。
そんなどうしようもないことを考えながら、カードキーをかざして玄関ドアのロックを解除する。
ドアハンドルを引いて見えた先に自分の物ではないピンクベージュの靴があるのを確認して、俺は安堵しながらドアを開ききった。
そろそろ帰宅すると、すでにメッセージは送ってある。
けれどなんとなく今日は、彼女を驚かせてみたい気分になって。
そっと後ろ手にドアを閉めてから、ゆっくりと玄関を上がった。
足音を消しながら家の中を進む。リビングへと続くドアは僅かに開いていて、隙間から物音が聞こえていた。
それから……リズムをつけた、彼女の声。
「今熱く~心燃やす~飛ばせ柊守りの要っ駆けろ柊涼やかに~!」
このドアを開けるとちょうど対面式キッチンを真横から見られる間取りになっているので、彼女の姿は容易に確認できた。
こっそり覗く俺の存在なんてまったく気づかず、華乃は気分良くうたいながらテキパキとキッチンで作業している。
彼女が口にしている歌が何なのか。
聞いた瞬間わかっていた俺は、思わず脱力し膝からくずおれそうになったのをなんとか堪えた。
彼女は今日も、ここにいるだろうか。俺のもとから、去ってしまっていないだろうか。
そんなどうしようもないことを考えながら、カードキーをかざして玄関ドアのロックを解除する。
ドアハンドルを引いて見えた先に自分の物ではないピンクベージュの靴があるのを確認して、俺は安堵しながらドアを開ききった。
そろそろ帰宅すると、すでにメッセージは送ってある。
けれどなんとなく今日は、彼女を驚かせてみたい気分になって。
そっと後ろ手にドアを閉めてから、ゆっくりと玄関を上がった。
足音を消しながら家の中を進む。リビングへと続くドアは僅かに開いていて、隙間から物音が聞こえていた。
それから……リズムをつけた、彼女の声。
「今熱く~心燃やす~飛ばせ柊守りの要っ駆けろ柊涼やかに~!」
このドアを開けるとちょうど対面式キッチンを真横から見られる間取りになっているので、彼女の姿は容易に確認できた。
こっそり覗く俺の存在なんてまったく気づかず、華乃は気分良くうたいながらテキパキとキッチンで作業している。
彼女が口にしている歌が何なのか。
聞いた瞬間わかっていた俺は、思わず脱力し膝からくずおれそうになったのをなんとか堪えた。