蜜月は始まらない
「かっ飛ばせー! ス・ズ・ヤ!」
……俺が打席に立つときの、応援歌……完璧に覚えて、あんな、楽しそうに……。
もともと知っていたのか、それとも、先日のドーム観戦の際に覚えたのか。
どちらにしろ、エプロン姿の好きな女が気分良く自分の応援歌をうたいながら飯を作ってくれている光景は、破壊力がすごい。今すぐ抱きしめたい。
もちろん、いやらしい意味で。
思わず手が出そうになる衝動をグッと堪え、静かにひとつ深呼吸をしてからリビングに足を踏み入れた。
「華乃」
「わ! えっ、錫也くん?!」
俺が声をかけた瞬間ビクッと肩を震わせ、華乃がこちらを振り向いた。
目をまんまるに見開き、その顔は驚きに満ちている。
「どっ、えっ、い、いつの間に……!」
「悪い。驚かせようと思って、こっそり入ってきた」
一応は己の行動を詫びるセリフを口にするが、実のところあまり反省はしていない。
だって、そのおかげで……。
「き、聞いちゃった? よね……?」
彩り良くサラダを盛り付けていた手を止め、心なしか赤い顔をしながらそろりと上目遣いで俺をうかがう。
そんな彼女を前に、自然と頬が緩むのを抑えられない。
「なにを? なんのことかよくわからないから、もう1回再現してみてくれ」
「わかってる! その顔はわかってるでしょう~!?」
もはや誤魔化しようもないほど茹だった顔で、不服を申し立てた華乃。
かわいくてたまらないその様子に、今度こそ俺は声に出して笑ってしまった。
……俺が打席に立つときの、応援歌……完璧に覚えて、あんな、楽しそうに……。
もともと知っていたのか、それとも、先日のドーム観戦の際に覚えたのか。
どちらにしろ、エプロン姿の好きな女が気分良く自分の応援歌をうたいながら飯を作ってくれている光景は、破壊力がすごい。今すぐ抱きしめたい。
もちろん、いやらしい意味で。
思わず手が出そうになる衝動をグッと堪え、静かにひとつ深呼吸をしてからリビングに足を踏み入れた。
「華乃」
「わ! えっ、錫也くん?!」
俺が声をかけた瞬間ビクッと肩を震わせ、華乃がこちらを振り向いた。
目をまんまるに見開き、その顔は驚きに満ちている。
「どっ、えっ、い、いつの間に……!」
「悪い。驚かせようと思って、こっそり入ってきた」
一応は己の行動を詫びるセリフを口にするが、実のところあまり反省はしていない。
だって、そのおかげで……。
「き、聞いちゃった? よね……?」
彩り良くサラダを盛り付けていた手を止め、心なしか赤い顔をしながらそろりと上目遣いで俺をうかがう。
そんな彼女を前に、自然と頬が緩むのを抑えられない。
「なにを? なんのことかよくわからないから、もう1回再現してみてくれ」
「わかってる! その顔はわかってるでしょう~!?」
もはや誤魔化しようもないほど茹だった顔で、不服を申し立てた華乃。
かわいくてたまらないその様子に、今度こそ俺は声に出して笑ってしまった。