蜜月は始まらない
「な、からかったのも含めて悪かったよ。ふざけすぎてごめん。そろそろ機嫌直してくれ」



彼女お手製の料理が並ぶテーブルを挟み、正面に座る人物に向けて陳謝の言葉を投げかける。

今度は、きちんと心を込めた謝罪だ。
あれから食事の席についても、華乃はずっと俺と目を合わせず口数も少ない。

どうやら本気で機嫌を損ねてしまったようだ。
また早く笑顔を見せて欲しくて、外からどう見えているかは知らないが内心必死で言葉を尽くす。



「頼む。できるかはわからないけど、忘れろって言うなら一応努力はしてみるから」



俺がそう言ったところで、華乃が不意にぷっと吹き出した。

そのままくすくすと笑い出したから、彼女を眺めながら俺は思わず首をかしげる。



「華乃?」

「ごめん、だって……『一応努力はしてみる』って、錫也くん、大真面目に言うんだもん」



笑った顔を見せてもらえたのはいいが、なんとなく釈然としない。

おそらく、今の自分は変な表情をしてしまっている。

そんな俺と、どこか照れたような顔をして向かい側の華乃が目を合わせた。



「違うの、私、怒ってたわけじゃなくて。ただ錫也くん本人に、こっそり応援歌うたってるところ見られたのが恥ずかしかっただけなの」
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