蜜月は始まらない
他愛ない会話を交わしていると、ほどなくして予約していたフルコースがオードブルから順に通されてくる。
目にも鮮やかで食欲をそそる前菜を口に運ぶと、僅かに残っていた緊張も完全に溶けてなくなったらしい。
華乃は顔をほころばせながら、食事を楽しんでいる様子だ。
スープ、ポワソン、ソルベ、ヴィアンド、デセール。
やって来る順番は型通りながら、オーナーシェフ自らの手で目の前に置かれる料理はどれも趣向を凝らしたもので、じっくり味わいながら自然と会話も弾む。
「錫也くん、よくこんな素敵なお店知ってたね」
そう話す華乃はフランボワーズソースがかかったスフレショコラを堪能している真っ最中で、今にもとろけそうな顔だ。
別に隠すことでもないので、俺は正直に答える。
「よく取材を受ける野球雑誌の……ヒトミさんていう記者の人が前に教えてくれたんだ。あちこち食べ歩くのが趣味らしくて、おもしろい店をたくさん知ってて」
「……へぇ。そうだったんだね」
こちらの言葉に笑みを浮かべてうなずく華乃の表情が、なぜか急にこわばったように思えて気になった。
けれどもとりあえず、話を続ける。
「ああ。だから実は俺も、ここには初めて来た」
「そっか。……なんか申し訳ないな、一緒に来たのが私で。そのヒトミさんは、もしかしたら、錫也くんを誘いたかったんじゃ」
思いもしなかった彼女からの言葉に、俺は目をまたたかせた。
「まさか。去年の結婚記念日に奥さんと行ったとか自慢されただけで、別に誘われたりは」
「え?」
「え?」
目にも鮮やかで食欲をそそる前菜を口に運ぶと、僅かに残っていた緊張も完全に溶けてなくなったらしい。
華乃は顔をほころばせながら、食事を楽しんでいる様子だ。
スープ、ポワソン、ソルベ、ヴィアンド、デセール。
やって来る順番は型通りながら、オーナーシェフ自らの手で目の前に置かれる料理はどれも趣向を凝らしたもので、じっくり味わいながら自然と会話も弾む。
「錫也くん、よくこんな素敵なお店知ってたね」
そう話す華乃はフランボワーズソースがかかったスフレショコラを堪能している真っ最中で、今にもとろけそうな顔だ。
別に隠すことでもないので、俺は正直に答える。
「よく取材を受ける野球雑誌の……ヒトミさんていう記者の人が前に教えてくれたんだ。あちこち食べ歩くのが趣味らしくて、おもしろい店をたくさん知ってて」
「……へぇ。そうだったんだね」
こちらの言葉に笑みを浮かべてうなずく華乃の表情が、なぜか急にこわばったように思えて気になった。
けれどもとりあえず、話を続ける。
「ああ。だから実は俺も、ここには初めて来た」
「そっか。……なんか申し訳ないな、一緒に来たのが私で。そのヒトミさんは、もしかしたら、錫也くんを誘いたかったんじゃ」
思いもしなかった彼女からの言葉に、俺は目をまたたかせた。
「まさか。去年の結婚記念日に奥さんと行ったとか自慢されただけで、別に誘われたりは」
「え?」
「え?」