蜜月は始まらない
当初私は、ちょっとこじゃれたレストランの個室あたりでやるのかなあなんて思っていた。ホテルのラウンジとかも一般的らしいけど、柊くんは有名人だから個室じゃなきゃまずいだろうし。

だから服装もワンピースを考えていたのだけど、ゆきのさんからお見合い場所の連絡をもらった母が「これは着物で行くべき事案ね!!」と張り切ってタンスに眠っていた振袖を引っぱり出したのだ。

いわく、「あんたは顔立ちがあっさりだから着物似合うし」というのもあるらしい。

たしかに私の顔立ちは、特別大きくはない奥二重の瞳に小さめの鼻、薄い唇に色白の肌と、典型的な塩顔というやつ。全体的に色素が薄いようで、もともと少し茶色がかっている黒髪は今まで一度も染めたことがない。

唯一特徴的といえるものは偶然にも母と対称の位置にある、左目尻の下のホクロくらいだろうか。

ちなみに今回のお見合いはまったく知らない間柄でもないし、ということで、事前に釣書は交換しなかった。

テレビ越しとはいえ最近の柊くんを一応は知っている私はともかく、柊くんの方はよかったのかなあと思う。

最後に直接会ったのは……社会人3年目の年の同窓会だったから、もう4年も前のことだ。

まあどうせ、私の変化なんて髪型くらいだろうけど。それでも25歳の頃に比べたら、多少……お肌のコンディションとか……?



「まあ、いろいろ話してみてもし無理だと思ったならそれは仕方ないし。お断りすることだってできるんだから、もっと肩の力抜きなさい」

「……うん」



綺麗に磨かれたテーブルの木目に視線を落としたまま、こくりとうなずく。

そうだ。今さらグダグダ考えたところで、柊くんはもうすぐここへやって来てしまう。

“初恋の人に会いたい”。欲張りにも沸き起こったそんな想いに引っぱられて、つい承諾してしまった話ではあるけれど……せめて失礼のないように、振る舞わなければ。

完全に消滅することなく心の奥でくすぶっていたこの気持ちに……今度こそ、ケリをつけなければ。
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