蜜月は始まらない
階段を下りて彼女の隣に並び、ポケットから取り出した“ソレ”を差し出す。
俺の手の中にあるものを見て、華乃がこぼれんばかりに目を見開いた。
「錫也くん」
「これは……プレゼントというより、俺が個人的に、華乃に持っていて欲しいものなんだけど」
彼女の右手首をそっと掴み、この類には珍しい桐の小箱を手のひらに載せる。
俺の促すような視線を受け、細い指先がおそるおそるリボンを解いて箱の蓋を開けた。
中に鎮座していたリングが、僅かな明かりを受けてきらめく。
「もし、趣味と違ってたら悪い。これは俺が、華乃に似合うんじゃないかと思って勝手に選んだから」
もっと他に言うべきことがあるはずなのに、俺の口から出るのはそんなセリフばかりだ。
それまで静かに固まっていた華乃が動き出し、ゆっくりとリングを左手の薬指に嵌めた。
広げた自分の手を少しの間眺め、それから俺に見せるように、手の甲を向ける。
「……似合う?」
ささやく声が濡れて震えているように聞こえるのは、気のせいだろうか。
あたりは薄暗いのに、ぎこちなく微笑む華乃がどうにも眩しく思えて、俺は無意識に目を眇めていた。
「ああ……想像以上だ」
いい加減果てが見えてもいいはずなのに、彼女の存在はいつも、予想を超えて俺の心を魅了する。
今はまだ、身の内にあるすべての感情を伝えることはできない。
それがもどかしくもあり、俺は同時に安堵もしていた。
長い月日をかけて膨らみすぎたこの想いは──もはや純粋でおキレイなだけのものでは、なくなっているから。
「ありがとう、錫也くん。……うれしい」
遠くに波の音が聞こえる。
俺を見つめる彼女の潤んだ瞳は、やわらかな光を放つ月よりもリングの宝石よりも、ずっとずっと美しかった。
俺の手の中にあるものを見て、華乃がこぼれんばかりに目を見開いた。
「錫也くん」
「これは……プレゼントというより、俺が個人的に、華乃に持っていて欲しいものなんだけど」
彼女の右手首をそっと掴み、この類には珍しい桐の小箱を手のひらに載せる。
俺の促すような視線を受け、細い指先がおそるおそるリボンを解いて箱の蓋を開けた。
中に鎮座していたリングが、僅かな明かりを受けてきらめく。
「もし、趣味と違ってたら悪い。これは俺が、華乃に似合うんじゃないかと思って勝手に選んだから」
もっと他に言うべきことがあるはずなのに、俺の口から出るのはそんなセリフばかりだ。
それまで静かに固まっていた華乃が動き出し、ゆっくりとリングを左手の薬指に嵌めた。
広げた自分の手を少しの間眺め、それから俺に見せるように、手の甲を向ける。
「……似合う?」
ささやく声が濡れて震えているように聞こえるのは、気のせいだろうか。
あたりは薄暗いのに、ぎこちなく微笑む華乃がどうにも眩しく思えて、俺は無意識に目を眇めていた。
「ああ……想像以上だ」
いい加減果てが見えてもいいはずなのに、彼女の存在はいつも、予想を超えて俺の心を魅了する。
今はまだ、身の内にあるすべての感情を伝えることはできない。
それがもどかしくもあり、俺は同時に安堵もしていた。
長い月日をかけて膨らみすぎたこの想いは──もはや純粋でおキレイなだけのものでは、なくなっているから。
「ありがとう、錫也くん。……うれしい」
遠くに波の音が聞こえる。
俺を見つめる彼女の潤んだ瞳は、やわらかな光を放つ月よりもリングの宝石よりも、ずっとずっと美しかった。