蜜月は始まらない
#7.彼(か)の花は逃げた
自宅のソファに腰かけて洗濯済みの衣類を畳み終えた私は、うーんと伸びをして背もたれに体重を預けた。
深夜にほど近い今の時間、テレビも消してしまったひとりきりのリビングは静まり返っていて、無意識に吐いたため息がやけに大きく聞こえる。
錫也くん……そろそろ帰って来るかなあ。
平日はほとんどがナイターなので、木曜日の今日も例に漏れず18時スタートだった。
試合自体は21時半頃にウィングスの勝利で終了しているから、そろそろ家に着く頃だと思うんだけど……。
錫也くんは、気にしないで先に寝ていていいからと言う。
あまりに遅いときは素直にそうするけど、今夜にいたっては明日の仕事はお休みだから、家事をこなしつつ待つことにしたのだ。
ソファに深くもたれながら、私はここ数日何度やったかわからない仕草をする。
自分の左手を軽く持ち上げて、目の前に手の甲をかざすのだ。
5本ある指の、左から2番目。
薬指に嵌っている指輪をぼうっと見つめ、自然と吐息が漏れた。
『これは……プレゼントというより、俺が個人的に、華乃に持っていて欲しいものなんだけど』
3日前の夜。錫也くんはそう言って、私にこれを渡してくれた。
どこからどう見ても、これはエンゲージリングというやつだ。
まさか彼が、私のためにこんなにたいそうなものを用意してくれていたなんて思ってもみなかった。
これを受け取ったときは本当に驚いて、それ以上にうれしくてたまらなくて。
思わず泣きそうになってしまうのを必死に堪えながら、なんとかお礼を言った。