蜜月は始まらない
テレビで見ていたばかりのユニフォーム姿ではなく、仕立てのよさそうなスーツを身にまとっている。
高い身長に鍛えられた身体を持つ彼にぴったり寄り添うそれは、きっとオーダーメイドで作られたものなのだろう。
テーブルを挟んだ真向かいに彼が立った。
視線が交わった瞬間、私はどうしようもなく泣きたいような、逃げ出してしまいたいような。そんな何ともいえない感覚に陥って、思わずすぐに目を伏せてしまう。
「本日はこのような場を設けていただき、ありがとうございます」
「いえいえこちらこそ。突然のお願いにも関わらず、ご快諾感謝いたします」
「とんでもない。ご子息のような素晴らしい方にお声かけいただきまして、身に余る光栄です」
全員が座布団に腰を下ろしたタイミングでうちの母が口火を切れば、ゆきのさんがどこか楽しげに答える。
彼の母がこのお見合いにノリノリという話は、どうやら事実のようだ。明らかに浮き足立った様子の母親たちと、横にいる当事者たちとの温度差をすでに感じる。
けれど次に口を開いたのは、意外にも目の前にいる彼だった。
「柊 錫也です。よろしくお願いします」
ずいぶん久々に聞いた低い声が、胸の奥底にある淡い記憶を揺らす。
ああ……彼だ。本当に今、ここに柊くんがいるんだ。
思いのほか力強い眼差しに射抜かれ、私は一瞬喉をつかえさせながらなんとか返した。
「……花倉華乃です。よろしくお願い、します」
高い身長に鍛えられた身体を持つ彼にぴったり寄り添うそれは、きっとオーダーメイドで作られたものなのだろう。
テーブルを挟んだ真向かいに彼が立った。
視線が交わった瞬間、私はどうしようもなく泣きたいような、逃げ出してしまいたいような。そんな何ともいえない感覚に陥って、思わずすぐに目を伏せてしまう。
「本日はこのような場を設けていただき、ありがとうございます」
「いえいえこちらこそ。突然のお願いにも関わらず、ご快諾感謝いたします」
「とんでもない。ご子息のような素晴らしい方にお声かけいただきまして、身に余る光栄です」
全員が座布団に腰を下ろしたタイミングでうちの母が口火を切れば、ゆきのさんがどこか楽しげに答える。
彼の母がこのお見合いにノリノリという話は、どうやら事実のようだ。明らかに浮き足立った様子の母親たちと、横にいる当事者たちとの温度差をすでに感じる。
けれど次に口を開いたのは、意外にも目の前にいる彼だった。
「柊 錫也です。よろしくお願いします」
ずいぶん久々に聞いた低い声が、胸の奥底にある淡い記憶を揺らす。
ああ……彼だ。本当に今、ここに柊くんがいるんだ。
思いのほか力強い眼差しに射抜かれ、私は一瞬喉をつかえさせながらなんとか返した。
「……花倉華乃です。よろしくお願い、します」