蜜月は始まらない
「全然……あのときの話、してこなかったから。俺だって、気づいてないんだと思ってた」

「ええっ?! や、だってそれは、錫也くんにとってはどうでもいいことだったかもって、当時考えたりしちゃってて」

「どうでもよくなんてない。あの頃俺は、華乃に忘れられてると思って結構傷ついてた」

「そ……それは、えっと、あの、すみませんでした……」



まさかの10年越しに発覚した事実に、とりあえず謝罪の言葉を口にすることしかできなかった。

どうしよう、もしかして錫也くん、怒ったかな……?

そう考えて顔を覗き込もうとしたら、それよりも早く彼が動く。

横たわった状態から半身を起こしてこちらに覆いかぶさる体勢になった錫也くんが、すかさず私の唇を奪った。



「……許す。けど、それなりに代償はもらうから」

「だ、代償??」

「そう。とりあえず今は、思う存分華乃を味わわせてもらいます」

「ふぁ?! 待って、ねぇ、錫也くん──」



再度降ってきた唇に封じられ、抗議は喉の奥へと消える。

こうなったらもう、仕方ない。あとのことは考えずに、今はただ、彼だけを感じよう。

何度目かもわからなくなったキスは、それでもひたすらに甘く、私の心を震わせた。
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