蜜月は始まらない
エピローグ
「しんっじられない……」
ダイニングテーブルに置いた手をわなわなと震わせながら、私はテレビを見つめていた。
その向かい側、錫也くんは長い脚を組んで椅子に座り、素知らぬ顔をしてコーヒーを飲んでいる。
テレビで流れる朝の情報番組は、ゆうべのプロ野球結果を報せている最中だ。
だけど今日は、そのコーナーも普段とは違う様子を呈していた。
『では、ゆうべのウィングス対タイタンズ戦で行われたヒーローインタビューを改めてご覧になっていただきましょう』
スポーツニュースを担当するイケメンアナウンサーから画面が切り替わり、昨日行われたナイターのヒーローインタビュー映像が映し出される。
お立ち台に堂々と立っているのは、今まさに目の前でくつろいでいる錫也くんだ。
傍らに控えるアナウンサーが、高らかに本日のヒーローの名前を告げてインタビューが始まる。
『柊選手、7回裏の逆転タイムリー見事でした! おめでとうございます!』
『ありがとうございます。実は今日は最初からこのヒーローインタビューを狙っていたので、よかったです』
錫也くんのその発言に、テレビの中の周囲がざわついた。
彼はアナウンサーからマイクを受け取ると、至って真面目な表情のまま淡々と語り出す。