蜜月は始まらない
『──という柊選手の爆弾発言に、プロ野球ファンやそうでない人々からも祝福や落胆の声が──』



画面がスタジオに切り替わってアナウンサーの言葉は続いているけれど、私はテレビから目の前の彼へとキッと視線をずらす。



「あんな! 大勢の人の前で……! どうしてあんなこと言っちゃうのかなあ??!」

「全部本当のことだし、どこが問題なんだ?」

「もおおお!!」



本当にわからないといった表情で首をかしげられ、頭を抱えたくなった。

ゆうべの野球中継終了以降、どのニュース番組でもこの話題でもちきりになっている。

あのヒーローインタビューをテレビ越しにリアルタイムで観ていた私は、本当に驚いたのだ。

私と錫也くんが互いの気持ちを伝え合ったのが、つい2日前のこと。

それがこんな、急展開で錫也くんのプロポーズ相手について世間が様々な憶測を語る状況になっていて……まだ誰も私のことなんて知らないとはいえ、居た堪れないことこの上ない。



「監督とチームメイトからゴーサインが出たからな。手っ取り早くあの場で弁解させてもらった」



そう言って彼は、テーブルにコトンとマグカップを置く。

あれを許しちゃう東都ウィングスの人たち大物だわぁ、なんて現実逃避気味にしみじみ考えつつも、私は恨めしげに錫也くんを見つめた。
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