蜜月は始まらない
大真面目な顔で告げる俺に、すかさず華乃が動揺した様子でツッコんだ。

今現在も彼女の左手の薬指には俺と揃いのデザインのリングが光っているし、結婚式だって先月無事に終えている。

名実ともに正式な夫婦となったくせに、こうして勢いで求婚するのはもう何度目になるだろうか。

だけど、こればっかりは仕方ない。華乃を前にした俺は、いつも底なしに貪欲なのだ。

俺の上でもぞもぞ身じろぎする華乃が、どこか焦り顔でこちらを見る。



「えっと、お昼前には自主トレ行くんだよね? 朝ごはん、もう出来てるよ?」

「うん。食べる」



答えながら、華乃を抱いたままくるりと反転。

突然視界が変わって目を白黒させている彼女を眺め、ニッコリ笑ってみせた。



「けどその前に、華乃を味見しようかと思って」

「あ……っえ?!」



親指の腹で華乃の頬を撫でると、みるみるうちに触れたところが熱を持ち始める。

ああ、かわいい。食ってしまいたい。



「そ、そんなのしなくたって、私のことは全部知ってるでしょ?!」

「わかんねぇ。今日の華乃は昨日と違う味かもしれない」

「も……もー!!」



真っ赤な顔をしてペシペシ俺の腕を叩く華乃に、たまらずまた笑みがこぼれる。

そのまま問答無用で彼女の唇を自分のそれで塞いでしまえば、諦めたように力を抜いて胸もとへとすがりついてきた。



「……すっごい、抱かれたそうな顔してる」

「な、っす、錫也くんが、やらしい触り方するからぁ……っ」

「ははっ、そうだな。俺のせいにしといて」



笑って答えてから、次の抗議の声が上がる前にキスで封じ込める。

夢でみる、あどけない高校生の彼女も。

今俺の目の前にいる、大人の魅力が花開いた彼女も。

すべてがいとおしくて幸せな、水曜日の朝だった。










/END
2018/12/04
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