蜜月は始まらない
「……久しぶり、柊くん」

「髪、短くなってて驚いた。俺の中で、花倉はずっとロングヘアのイメージだったから」

「そう、かな? ここしばらくは、このくらいの長さにしてるんだけど」



答えつつ、肩につかない長さの髪に何気なく触った。



「そうなのか。短いのも似合ってる」



不意打ちで降ってきた言葉に思わず息を止める。

そして容易く(私にとっては)爆弾発言をしてくれた柊くんはといえば、端整な顔をこちらに向けて私の反応をうかがっているようだった。

ほ……褒められて、しまった。
なんか、うん、そっかあ……私たち、いい大人になったんだもんね。柊くんも、自然にお世辞だって使うよね。無表情だけど……。

リップサービスだとわかってはいても喧しくなる心臓のあたりに片手を添えつつ、「あ、ありがとう」となんとかつぶやいた。

たしかに、社会人になってからもしばらくはロングヘアのままだったな。柊くんと少し話せた同窓会のときも、そういえばまだ長くしていた時期だったかもしれない。

彼も同じことを思い出していたのか、少し考えるそぶりを見せたあとにまたこちらを向いた。



「最後に会ったのは、武山(たけやま)の知り合いの店で同窓会やったときか?」

「あー、そうだったね。ホストクラブみたいなすっごいライトアップしてたとこ」



彼のセリフに当時のことを思い出して、くすりと笑みがこぼれる。

友達とお店に着いたとき、びっくりしたっけ。なんだかんだでみんなテンション上がって楽しんでたけど。

するとそこで柊くんが、こちらを見下ろしながらイタズラっぽく目を細める。



「花倉、ホストクラブ行ったことあるのか?」

「へっ?! な、ないよ! 今のは、イメージで……!」

「冗談。花倉は行かなさそうだよな、そういうとこ」



ふっと口もとを緩めてそんなことを言う彼に、頬が熱くなった。
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