蜜月は始まらない
「私の友達が幹事なんですけど、女子側がひとり行けなくなっちゃったらしくてー。花倉さん、今彼氏いないって言ってましたもんね!?」
「え……う、うん、まあ」
期待に満ちた眼差しで詰め寄られ、反射的にうなずいて答えた。
すると横から、別の人物の声が割り込む。
「こらっ、根本さん! 花倉さんになんて誘いしてんの!」
その声の主は、正規職員の吉田さん。高校生と中学生ふたりのお子さんを持つママでもある、ベテラン司書さんだ。
さすがに職場でこの話はマズかったよねと焦りかけたけど、吉田さんの指摘はどうやら別のところにあったらしい。彼女はふくよかな身体を素早く私たちに寄せ、手のひらでペシペシと根本さんの薄い肩を連打する。
「根本さんも知ってるでしょ、花倉さんの“あの”話! まだ1年しか経ってないんだから、その手の話題は振らないのっ!」
「ええ~? 『まだ』っていうより『もう』1年じゃないですかあ? 花倉さん目立つタイプではないけど地味にカワイイし、積極的にいけばガンガン新しい恋人も作れると思うんですよ~」
「ガンガンって!! 同時進行はダメよ?!」
「あたりまえじゃないですか~この真面目な花倉さんがそんなことできると思います? きっとクソみたいに実直な銀行マンあたりと結婚して柴犬とか飼いながら35年ローンの一軒家で派手さはないけど小さなしあわせを積み重ねて慎ましく穏やかに暮らすんですよ」
「あら……素敵な人生……」
「え……う、うん、まあ」
期待に満ちた眼差しで詰め寄られ、反射的にうなずいて答えた。
すると横から、別の人物の声が割り込む。
「こらっ、根本さん! 花倉さんになんて誘いしてんの!」
その声の主は、正規職員の吉田さん。高校生と中学生ふたりのお子さんを持つママでもある、ベテラン司書さんだ。
さすがに職場でこの話はマズかったよねと焦りかけたけど、吉田さんの指摘はどうやら別のところにあったらしい。彼女はふくよかな身体を素早く私たちに寄せ、手のひらでペシペシと根本さんの薄い肩を連打する。
「根本さんも知ってるでしょ、花倉さんの“あの”話! まだ1年しか経ってないんだから、その手の話題は振らないのっ!」
「ええ~? 『まだ』っていうより『もう』1年じゃないですかあ? 花倉さん目立つタイプではないけど地味にカワイイし、積極的にいけばガンガン新しい恋人も作れると思うんですよ~」
「ガンガンって!! 同時進行はダメよ?!」
「あたりまえじゃないですか~この真面目な花倉さんがそんなことできると思います? きっとクソみたいに実直な銀行マンあたりと結婚して柴犬とか飼いながら35年ローンの一軒家で派手さはないけど小さなしあわせを積み重ねて慎ましく穏やかに暮らすんですよ」
「あら……素敵な人生……」