蜜月は始まらない
「柊くん……?」

「夢を叶えたのは、花倉だって同じだろ」

「え?」



思いがけない言葉に目を丸くする。

眉間にシワを寄せたその表情のまま、彼が続けた。



「管理栄養士の資格、取ったんだろ? 俺が『すごい人』なら、花倉だってすごい」

「……ッ、」



まっすぐに私の目を見つめながらいとも簡単に柊くんが言うから、息を呑む。

たしかに──私は高校時代、彼に『管理栄養士の資格を取りたい』と言ったことがあった気がする。

でもまさか、それを覚えていてくれたなんて。
こんなふうに、言ってくれるなんて。



「……引っかかっているのはそれだけか?」



降ってきた声にハッとして、無意識にうつむかせていた顔を上げた。

柊くんと目が合うと、真冬の外気に晒されているにも関わらず体温が上がる気がする。



「あ……それだけ、というか」

「俺は今誰とも付き合ってないし、夜な夜なチャラチャラと遊び歩いてるわけでもない。ちゃんと清廉潔白だと断言できる」

「はい?」



突如スラスラと彼の口から飛び出たセリフに、ついきょとんと目をまたたかせた。

そしてなおも、柊くんの口上は終わらない。



「掃除とか洗濯はそれなりにやれるけど、ただ料理だけはどうがんばっても壊滅的にダメで、そこは申し訳ないが花倉に頼りっきりになると思う。ずっと家にいてくれなんて言う気はないから、今働いてる職場も辞める必要はないし、俺が遠征とかでいない間も好きに出かけたらいい」
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