蜜月は始まらない
淀みなく語られる根本さんの言葉に、吉田さんがそれまでの説教モードからコロリと表情を変えて感銘を受けたようにしみじみつぶやいた。当事者の私を置き去りにして、なんだかいろいろ話が展開している。

そして、『地味にカワイイ』は果たしてよろこんでいいところ……?

ものすごくマイペースだけど憎めない性格の根本さんと、お人好しで面倒見のいい吉田さん。タイプが違いすぎるこのふたりの会話は、いつも予想外の方向に広がりを見せるのだ。

そこがおもしろくて、一緒に働きながら実は結構楽しんでしまっているところなんだけど……まさに自分がそのネタであるとなれば、楽しんでばかりもいられない。

肩の上で切りそろえた黒髪を何とはなしにいじりつつ、私は苦笑する。



「あの……根本さん? ごめんね、合コンは……申し訳ないんだけど、遠慮させてもらうね。吉田さんも、心配していただいてありがとうございます」

「えー、相手は公務員だから将来的にも安定ですよ~?」

「根本さんっ!!」



吉田さんの叱責にも、根本さんはペロリと舌を出しておどけている。

ほんと、根本さんてツワモノだな……。

思わずまた苦い笑みをこぼした。



「あはは……じゃあすみませんけど、私はお先に失礼しますね」



申し訳ないけど、こんなときは逃げるが勝ちだ。

まだまだ話し足りなさそうなふたりに声をかけ、私はひと足先にこの場をあとにした。
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