蜜月は始まらない
【晩飯ありがとう。今から帰る】



あとは柊くんが帰ってきてからメインを仕上げるのみ、という段階まで夕飯の仕込みを終えたところで、スマホにメッセージが届いた。

現在19時少し前。私の帰宅予想時間的中だ。



【わかりました。安全運転で、気をつけてね】



彼は球場まで自家用車で通っている。
先ほど送ったものと似たような文章を送信したあと、ちょっとだけ思案。

それから私は、自分なりにかなり思いきって、ゆるいネコのキャラクターがぺこりとお辞儀をしている【待ってます】というスタンプを送った。

わー!! 恥ずかしい!!
なんかほんとに、奥さんっぽくて恥ずかしい!!!

実際は籍すら入れていない、利害の一致で一緒にいるだけの関係なのに、それを棚に上げて私は猛烈に照れてしまう。

私、大丈夫だろうか。この先ちゃんと、柊くんとひとつ屋根の下で暮らしていけるかな。

高校時代、私は自分が柊くんに向けている気持ちを自覚してから、思うように彼と話すことができなくなってしまった。

まあ、もとからたくさんしゃべる仲ではなかったけれど……それでもその少ない機会はおおいに緊張して、上手く会話できなかった記憶がある。

柊くんは──そんな私によく、奥さん役を任せてくれる気になったよなあ。
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