蜜月は始まらない
#3.春雷と花
危なげなく対戦相手に快勝した日のロッカールームは、いつも以上に騒がしい。
そんな中俺は、正面を向いていてもわかるほどの不躾な視線を、自分の右隣から猛烈に感じていた。
しばらくスルーして着替えを続行していたが、あまりにもうっとおしい。
俺はため息を吐いて、渋々口を開く。
「あの、宗(そう)さん。さっきからなんなんですか」
同じチームの4年先輩とはいえ、この人に対してはわりと言いたい放題させてもらっている。
試合中は外していた腕時計を装着しながら呆れたような視線を向けてみれば、宗さんは上半身裸のまま神妙な顔でじっと俺のことを見つめている。
「いや。スズくんはいつ見ても顔がいいなと思って」
「はあ……」
「ハイ出た! 宗さんて柊の顔大好きですよね~」
「だってめちゃくちゃイケメンじゃん。何食べたらそんな顔になれんの? 納豆とか食べたことある?」
なぜそこで納豆……? 普通に好きだし食べるけど。
途中から割り込んできた別の先輩と宗さんが何やら盛り上がっている間に、ジーンズのベルトも締めて着替えを完了してしまう。
そうしてロッカーの棚から取り出したスマホを確認すれば、SNSにメッセージが1件。
画面に表示された文章を見て、ひそかに心を踊らせる。
「え、スズくんなにその顔……すっげぇ優しい微笑み浮かんでるよ……? 尊すぎて死人が出そう」
「ぶはっ死人て! 柊の破壊力半端ないわ~!」
わざとらしく口もとに片手をあててガン見してくる先輩その1と、その発言にゲラゲラ腹を抱えている笑いのツボが浅い先輩その2。
どっちが面倒くさいかと聞かれれば、どっちも面倒くさい。
よってふたりまとめてスルーしつつ返信を打とうとしていたのに、先輩その1が懲りずに話しかけてくる。