蜜月は始まらない
「１年前のことを考えれば……華乃がそんなふうに思っちゃう気持ちも、わかるんだけどね。でもお母さんとしては、誰かと家庭を持つよろこびとかしあわせっていうのも、できるなら自分の子には経験してもらいたいなって思うのよ」

「…………」



さっきまでより少しだけトーンが落ち着いたその母の言葉に、思わず押し黙る。

花倉家の大黒柱だった父が交通事故で突然この世を去ったのは、私が中学１年生だったときのことだ。

お父さんとお母さんは、いつもお互いを想い合っていて……本当に、仲睦まじい夫婦だった。ふたりの姿を身近で見ていた私は、昔からずっと、将来は自分も素敵な旦那さんとこんなふうにいつまでも仲良く暮らせたらと願っていたのだ。

けれど、大人になった私が一度は掴みかけたそのしあわせは──……去年の冬、形になる前にあっさりと崩れ去った。



「……それにね」



胸の奥からわき上がった苦い記憶に意識を持っていかれかけていた私を、母の声が現実へと戻す。



「お相手の方、きっと華乃も会って損はないと思うわよ？」



そう言って、さっきまでの感傷的な表情から一転ニコリと微笑んだ。

どこかイタズラっぽく感じるそのセリフと笑みに、私はつい胡散臭げな眼差しを向けてしまう。
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