蜜月は始まらない
『花倉、俺と結婚してくれ。俺は今日、これを言うつもりでここに来た』



いつか好きだと言っていた桜の木の前でとうとう本題を切り出すと、彼女はこちらに向けた目をまんまるに見開いて唖然としていた。

明らかに動揺する彼女に、本音では聞きたくもないが、念の為前の恋人に対しての現在の想いも確認しておく。

どうやら別れた浮気男に未練があるわけではないらしいが、俺との結婚を前向きに考えていたということもなさそうだった。

けれどこれは、想定内だ。



『……引っかかっているのはそれだけか?』

『あ……それだけ、というか』

『俺は今誰とも付き合ってないし、夜な夜なチャラチャラと遊び歩いてるわけでもない。ちゃんと清廉潔白だと断言できる』

『はい?』



躊躇いを見せる華乃の首をなんとか縦に振らせたくて、スラスラと畳みかけるように予め考えていた文章を降らせる。



『ずっと家にいてくれなんて言う気はないから、今働いてる職場も辞める必要はないし、俺が遠征とかでいない間も好きに出かけたらいい』



本当はもっと冷静に話すつもりだったのに、知らず知らず熱が入っていたのかもしれない。

被害妄想かもしれないが、こちらを見上げるこわばったその顔が、俺の必死さに引いているように感じて。



『……同じチームの、先輩たちが。ことあるごとに俺にモデルだかタレントだかの女をあてがおうとしてきて、辟易してたんだ』
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