蜜月は始まらない
『損はない』だなんて……どうやらお母さん的には、今回勝手に見繕ってきたお見合いのお相手とやらに相当お気に召す部分があったらしい。

顔が、相当いいとか? ……うーん、お父さんだって別にイケメンってわけじゃなかったしな。そこまで外見にこだわる人ではない……はず。

ということは、よっぽど名高い職業だとか、高収入とか?

なんだかそれも、いまいちピンとこないけど。

少なくとも私は、そういったスペックの高さにあまり興味もないんだけどなあ。



「お母さん、その相手の人に直接会ったの?」

「ううん。でもよく知ってるわよ」



……意味がわからない。

そんな内心の困惑が思いっきり顔に出ていたらしく、母がまた笑ってようやく種明かしをする。



「華乃だって、テレビでたまに見かけてるはずの人よ。高校時代は、もっと近い同じ教室の中で過ごしてたけど」

「え……」



ざわ、と胸騒ぎがした。

テレビ。高校時代、同じ教室で。

お母さんの話から導き出されたひとりの人物の顔が、そばで見ていた当時の姿で頭の中に思い浮かぶ。

そんな。まさか。それはありえない。彼な、わけ……。

けれども自分に言い聞かせるように脳内でかけていた否定の言葉は、目の前にいる人物によってあっさりと打ち砕かれた。



「さすがに思い当たったでしょ? 柊 錫也くん。高校のときクラスメイトで、今はプロ野球選手の」
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