蜜月は始まらない
#4.恋じゃない関係
……おかしい。
職場である市立図書館にてもくもくと傷んだ本の補修作業をしながら、私はひそかに首を捻っていた。
今は4月半ば。錫也くんとの同居生活が始まってから、ちょうど1ヶ月ほどになる。
ちなみに今日は閉館日にあたる月曜日だけれど、昨日が近所にある神社の祭典の関係で臨時休館日だったため、特別に開館しているのだ。
当初の予定では──もうとっくに、彼の方からこの同居の解消を言い渡されているはずだった。
けれど私たちは、いまだに同居人の関係を続けている。
彼はしょっちゅう遠征で家を空けるから、あのマンションでひとりきりの日も多いとはいえ……今日まで一緒に過ごした中で揉め事なんてものも起きていないし、平和に穏やかに問題なく、生活できていると思う。
いや。私個人はしょっちゅうドキドキしてしまっているから、内心は穏やかとは言えないかもしれないけど……。
錫也くんはいつも、私が作った料理をおいしそうに食べてくれる。
そして表情だけじゃなく、言葉にしてそれを伝えてくれるのだ。
彼に褒めてもらえると、自分が与えられた役割をちゃんと果たせていることに安心する反面……必要以上にうれしく思ってしまう自分に気づいて、困っていた。
このままじゃいつか終わる彼との生活を、私はどんどん手放せなくなっていく気がする。