蜜月は始まらない
明るい彼女のセリフ通りまさかな発言に、私は飲んでいたマグボトルのお茶をつい噴き出しそうになってしまった。

なんとか堪えたけれど、無理に飲み込んだお茶が変なところに入ってしまいゲホゲホと噎せる。



「えぇっ、花倉さん大丈夫ですか? ていうか、え、もしかしてマジで?!」

「そ……ケホッ、や、えっと……」



なんとか誤魔化したいのに、上手い言い訳が思いつかない。

しどろもどろな私を見て、根本さんは先ほどの発言が図星だったと完全に確定したようだった。



「え~~うっそー! おめでとうございますー!」



……観念、するしかない。

満面の笑みでそんなことを言ってくれる彼女に、これ以上隠し通すことはできないと思った。



「……ありがとう、根本さん」



つい両手を膝の上で握りしめながら、ぽそぽそとお礼を口にする。

興奮した様子の根本さんが、こちらに前のめりで身を乗り出してきた。


「いつから同棲してるんですか?! というか彼氏の存在すら知らなかったですけど!! やーもうなんで言ってくれないんですか水くさいなー!!」

「えっと、ごめんね、言うのが遅くなって……」

「や、別に謝んなくていいですけど!! ちょっとちょっとそうとわかれば恋バナしましょうよ恋バナ!!」



どうやらお昼休憩は、強制的に恋バナタイムへと突入してしまったようだ。

目の前の強引な後輩から逃れるすべもなく、私は彼女からの矢継ぎ早な質問に若干気後れしつつ答えていく。

1月の末に、お見合いをしたこと。

相手は、高校時代の同級生であったこと。

……会ったその日に結婚を決め、入籍を前提に3月半ばから一緒に住み始めたこと。
< 84 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop