L*O*V*E
「好きな人ができた。佐里がいるのに、最低な人間だと思ってる。」
部屋着に着替え終わり、リビングに腰かけた俺の第一声が、これだった。
こんな言い方しかできない自分が情けないけど、ありのままを伝えるしかないんだ。
「相手は会社の人?あの時の部下の…?」
佐里には相手までお見通しだったようだ。
「…ああ。好きになったのは俺。彼女は悪くないんだ。この気持ちに気づいた今、佐里と一緒にいることはできない。…だから、離婚……してほしい。」
離婚という言葉に、肩がピクリと動いた佐里。
役所でもらってきた離婚届を、そっとテーブルの上に置いた。
「本当にごめん、佐里。俺、高校の時の事故で、佐里のおかげでこうして生きられてるのに、その恩を仇で返すような真似…」
「やめて!!」
佐里がテーブルを叩いた。
「や…めて…そんな言い方しないで…」
「そんな…言い方?」
事故の話をした途端、明らかに様子がおかしくなった佐里。
再会した時に話したっきり、佐里とは事故の話をしたことはなかった。
それは、付き合うようになり結婚して、いつしか佐里が恩人から妻に変わったから。
でも心の中ではいつも、佐里が救急車を呼んでくれたから命が救われたこと、感謝していたんだ。
それが…一体どうして?
どうしてそんなに動揺するんだ?
「ごめん。事故の話はダメだった?だけど俺、命の恩人の佐里を裏切ろうとしてるから…」
「違う…違うの!!通報したのは私だけど…それは、健斗を跳ねた車に乗ってたのが私…だったからなの!!」
そう叫んだ佐里の目から、大粒の涙が溢れた。