片恋スクランブル



涙が溢れてきそうになって、慌てて御園生さんに背を向けた。

「えっと、私帰りますね!八木さんがタクシー呼んでくれてるんで」

深呼吸を交えながら、少し大きな声を出した。

御園生さんに涙を見せたら、また心配かけるし、迷惑だし。

「ああ……」

御園生さんに背中を向けたまま手を上げて、バイバイと振った。

マンション前に止まったタクシーを見つけて、走り出す。

あ……ヤバ。

涙がこぼれた。

けど、後ろ見てないし気づかれるわけない。

私は止まらず、タクシーの側まで走った。

後部座席の扉が開いて、私はそこから乗り込む。

……途端、右の肘が外へ強い力で引っ張られた。

「きゃあ!?」

私をタクシーから引き出した力の持ち主が、タクシーの中を覗き込み、運転士に「キャンセルします」と言うのが聞こえた。

タクシーは扉を閉めて走り出してしまう。

「あ……」

行っちゃった。

走り去るタクシーを見送り、私は途方にくれてしまう。

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