片恋スクランブル


「なんで泣いてる?」

すぐ後ろで、低い声音が響く。

私のバカ。なんでもう少し我慢出来なかったの?

泣いている人間を放っておけない、お人好しの御園生さんの前で。

「泣いてません……」

「嘘つけ!」

……加えて、強情な御園生さんの前で。

「泣いてませんてば!」

頭をブンブン振って、涙を見られないようにする。

「一人で泣くつもりか?」

泣きたいよ!……それなのにどうして放っておいてくれないの?

八木さんや御園生さんの前で泣きたくなかったから。

だから、早く帰りたかったのに。

バカ。……御園生さんなんて大嫌い。

「そんな顔を、他の男に見せるな!」

両肩を掴まれて、激しく怒られる。

そんな顔?

どうせ醜い顔ですよ?

人様に晒せる顔を、してませんよ……。

そんなこと御園生さんに言われなくても分かってますってば!

「分かってますよ!御園生さんに言われなくたって。」

涙でぐちゃぐちゃの顔を好きで見せたいわけないじゃないですか!

「分かってない!」

「分かってますってば!」

なんでこんな場所で、こんな言いあいしてるんだろ。

御園生さんのバカ、バカ、バカ、バカ!!!


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