片恋スクランブル
「八木くんの事でも考えてたの?」
不意に耳元で囁かれた声に、私は飛び上がりそうなくらい驚いた。
「菅谷さん?」
コーヒーを片手に、ラウンジにやって来た菅谷さんは私の前に座った。
「私も休憩中なの」
「あはは、ちょっと考え事してたから、ビックリしました」
「うん、そんな感じだった。好きな人の事でも考えてるのかなって」
「ちが……、」
慌てる私に菅谷さんは「そうなの?」と言った。
「むぅって顔をしたり、かと思えば、ほわほわって雰囲気で笑ってたり…………面白かった!」
「面白かった……って、それのどこが好きな人のことを考えていた事になるんですかっ」
「んー、うまく言えないけど、私もそうなの。八木くんの事考えてた時同僚の子に言われたの……ちょうど今橘ちゃんにいったそのままを」
な…………。
「私は、違いますよ」
違う。
好きな人じゃなくて……。
「顔、真っ赤だよ?」
ニコニコ笑う菅谷さん。
違うんだよ。私、八木さんの事を考えていたわけじゃないの。
御園生さんの事を考えていたんだよ。
だから、菅谷さんの反応とは違うんだけど。
どうしてだろう。すごく恥ずかしい。