片恋スクランブル
好きじゃない
いつもと変わらない朝だった。
定時にアパートを出て、会社へ向かう。
実は少し寝坊したのだけれど、15分の誤差は余裕で修正出来るんだ。
さすがに朝食は食べられなかったけれど、厨房の残り物つまんじゃおう位に考えていた。
そんな感じで、会社へ向かっていた私のすぐ隣に真っ青なスポーツカーが止まり、クラクションが派手に鳴り響いた。
朝から、迷惑な車。
見向きもせずそのまま進んだ私に、聞きなれた怒鳴り声。
「このバカ。激ニブ!」
なんて子供じみたボキャブラリーだろう。
「御園生さん!?」
名前を呼ばれたその人は、運転席から手を振り、私を呼んだ。
近付くと、助手席側のパワーウィンドが下りて御園生さんが見えた。
「乗れ!」
乗らない?じゃなくて「乗れ」なんだ。
やっぱり御園生さんってどんなときでも御園生さんだ。
「お邪魔します」
助手席に乗り込んだものの、左ハンドルの車って本来の運転席になるんだよね。
父の運転する車に乗るくらいだけど、なんだか違和感。
「おはよう……ございます」
「おはよ」
挨拶を返してくれたものの、前を向いて車を発進させた御園生さんの表情は見えなかった。
「徒歩15分位の距離なんですけどね」
車に乗る意味ないような……。
「今日、お前会社休みだから」
車を運転しながら、サラリと言われて一瞬言葉を失った。
会社休み?
「あの、私普通に出勤日ですけど……」
わけが分からず、彼に声をかける。