片恋スクランブル
「眼鏡じゃないと、ダメなのか?」
「は?」
突然何を言うんだろう?
「コンタクトって選択肢はないの?」
……コンタクト?
「あの……?」
戸惑う私をよそに、目の前の男性はスーツのポケットから携帯を取り出し、ボタンを素早く押した。
男性……。
この距離でボンヤリ見える男性の顔は若そうに見えた。
それは声でもなんとなく分かった。
黒っぽいスーツに、暗目の色のネクタイをしめている。
この辺りの会社に勤めるサラリーマンなんだろうけれど。
「今から行くから!」
携帯で話していたかと思えば、急に私に向き直り、再びジロジロと見ているのが分かった。
「あの……っ、」
耐えられない……この距離感。
「ん?」
「あの、弁償とか結構ですから……失礼します!」
とりあえずお辞儀だけして、私は早々にこの場を離れるべく、握られた腕を引いた。
「ダメだ!それじゃ俺の気がすまないから」
などと、自己中的発言で更に私を驚かせる。
……なに?この人。
「あ。警戒してる、か?」
ギクッ。
肩が震えた。
「違うぞ?変質者とかじゃねーから」