片恋スクランブル

化粧室から出て、さっきのフロアに戻る。

あ……。

ガラスにもたれている御園生さんに、数人の女子大生が彼を囲んで話しかけているのが見えた。

彼の元に向かう足が止まる。

なんて華やかな子達だろう。

キラキラしているのは、ガラスに反射している陽光だけが原因じゃないはず。

モテるんだな。御園生さんって……。

そうだよね。うちの会社でも噂になるくらいの人だ。

今日はいつもと違ってラフなスタイルで、淡いグレーのシャツに黒い細身のパンツ。
ファーのフードが付いたコートを弛く、羽織っている。

……カッコいいんだよね。

女子大生達はキラキラした笑顔で、御園生さんに話し掛け、御園生さんもそれに答え、穏やかな笑みを浮かべている。

女子大生の一人が、御園生さんの腕に自分の細い腕を絡ませ、先を指差し「行こう」と誘っているのが分かった。

戻らなきゃ……。

そう思って、彼らの元に向かおうとした自分の姿が、目の前の水槽に映って、それを見た瞬間私は動けなくなった。

なんてみすぼらしいカッコしてるんだろう。

普段から会社の行き帰りに、お洒落なんかしない。

……お洒落したってたかが知れてるけど。

こんなカッコで、よくも今迄彼の隣にいられたものだと思う。

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