片恋スクランブル


……帰りたい。

今すぐこの場所から、離れたいと思った。

彼らに背を向けて、歩き出す。

黙って帰ったら、きっと御園生さん酷く怒ると思う。

でも……いられないよ。

自然足が早くなる。

気付かれないうちに、ここを離れてしまいたかった。

「舞夏!?」

御園生さんの私を呼ぶ声が聞こえたけど、止まれなかった。

……止まりたくなかった。

追いかけてなんて来てほしくなかった。

それなのに……。

「舞夏……どうした?」

肩を捕まれて、向き直らされた私の目の前に彼の心配そうな表情があった。

そして、もう一つ見えてしまった。

さっきのフロアにいた女子大生達の、蔑む視線。

思わず顔を背けた。

「舞夏?具合悪いのか?」

なおも心配してくれる御園生さんには申し訳なかったけど。

「すみません。ちょっと気分悪くて……今日は帰ります」

御園生さんの顔を見れずに、俯いたまま言った。

「大丈夫か?家まで送るから」

肩を抱き寄せられる。

「やっ……」

思わず、御園生さんの体を突き飛ばしていた。

「……舞夏?」

驚いた顔で、私を見ている。

< 116 / 159 >

この作品をシェア

pagetop