片恋スクランブル


でも結局布団に入ったところで眠れやしなかったから、今朝寝坊したんだから。

御園生さんが今朝私を強引に連れ出してくれなかったら、今日は朝から複雑な心境のままいなきゃいけなかったに違いない。

だから、御園生さんには感謝したいくらいだよ。

情けないことに、今までの時間を私の為に費やしてくれたことに……勘違いしそうになってしまった。

御園生さんは、八木さんに片想いしている私を傷付けないために、

手をさしのべてくれた。

ただ、それだけだった。

「同情ならしなくても大丈夫ですよ……私、二人がそうなること知ってましたから!」

精一杯の強がりだったのかな?

八木さんは、菅谷さんが好きで

菅谷さんも、八木さんが好き。

白川さんの事も、うまくいったに違いなくて。

だとしたら、二人が付き合うことになんの問題もなかった。

そっか。

うまくいったんだ。

……よかった。

本当によかった。

あれ?

なんで涙が溢れてくるんだろ?

ホッとしたからかなぁ……。

二人の幸せそうな顔が浮かんでくるもん。

「わ……私、帰りますね」

タクシーつかまえる。泣き顔くらい見られたって平気。

今、この場にいることの方が、なんだか辛い。

「なんだよ……それ」

背中で、低く重い呟きが聞こえた。

「舞夏!」

私を呼んで、御園生さんが追いかけてくるのが分かって、私は走り出した。

この前みたいに、怒られてタクシー返したら大変だもん。

「止まれ!舞夏!」

ヤダ!

止まらない。絶対に止まりたくない。

泣き顔見られるのも嫌だし、また怒られるのも嫌。

……なにより、同情されるなんて、もっといやだ。

タクシー乗り場が遠いことが恨めしかった。

自分の鈍足も憎らしかった。

なにより、放っておいて欲しいのに、いつも追いかけてくる御園生さんがいやだ。

御園生さんなんて、好きじゃない…………。

キライ。

大キライ。


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