片恋スクランブル




―――――え?

今の声、菅谷さん?

振り返って周りを見回した時、人混みの中に、彼を見つけた。

いた!

御園生さんだ。

彼を見つけられたことが嬉しくて、思わず走り出していた。

7cmのヒールと、出口へ向かう人の波が私を簡単には進ませてくれなかったけど。

とにかく、御園生さんの所まで行きたくて、必死だった。

御園生さんは私に気付いていたけれど、驚いた表情で固まったまま動かない。




もう、いい。

もう何も考えない。

今、自分の逸る感情のまま動いていたかった。

今私が望むことはただひとつ。

―――――御園生さんの顔が見たい、声が聞きたい……。

彼のそばに行きたい。

ただ、それだけ。


「……み、御園生さん!」

ようやく彼の目の前に立つことが出来た。

彼の名前を呼び、彼の顔を見上げる。

御園生さんは言葉もなく、ただ私を真っ直ぐに見下ろしていた。

人の進みを邪魔する形で立っていた私達を、通り過ぎていく人達が迷惑そうに見ているのが分かった。

「あ……なんか、邪魔ですよね私」

壁際に寄ろうとして、肩が人波に押されてバランスを崩してしまう。

ひゃ……ッ!

倒れかけた私の身体を支えてくれたのは、目の前にいた御園生さんで。

彼の逞しい二の腕はそのまま私の腰を抱えて、ホームの壁際迄進んだ。

「……なにしてんの?」

私を片手で抱き抱えたままで、御園生さんが問う。

えっ?この状態で話すの?

「あの……、下ろして欲しいんですけど」

なんだか無性に恥ずかしい。

迷惑そうな回りの視線が、好奇なものへと変わっていることにこの人は気付いてない?

「ダメだ」

ダメ……って。


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