片恋スクランブル
社食
…………来た!
社員食堂の入り口付近で、同僚に囲まれて楽しそうに笑う彼が見えた。
白いワイシャツの両袖をまくり、トレイに手を伸ばす。
いつものように、私が立つカレーの列に彼は並んでいた。
八木さん。
営業の八木 博貴(ヤギ ヒロキ)さん。
28歳、独身。
恋人がいる……かは知らない。
私の憧れの人。
「ライス大盛りで」
私の目の前に立ち、いつものように同じ注文をする。
「はい」
小さく返事をして、重ねてあるお皿を取り、業務用のジャーのふたを開けてご飯を盛る。
そして、カレーを注ぐ係の、隣にいる花田さんにお皿を渡す。
「八木のライス特盛じゃね?」
不意に聞こえた声に、チラッと視線を向ける。
八木さんの同僚で同期の……確か、小幡(コバタ)さんという人だ。
「そっか?これでもまだ足りねんだけどなぁ、」
カレーが盛られて、ライスは隠れて見えなくなっている。