片恋スクランブル
「確かに、気分は変わるかも……しれませんね」
変な感じだ。
今までの自分を否定する訳じゃないけど、この人がいうように今の自分に少し色をつけたくなった。
鮮やかな明るい色を。
目の前の鏡を見る。
眼鏡をしていない、自分の顔がハッキリ見える。
嫌いじゃないと思った。
「おい、こいつの眼鏡をしまってくれ。このまま帰る。」
近くに控えていた店員に声をかけて、御園生さんはソファから立ち上がった。
「ちょっと待ってください、私コレ外せない……」
入れるのも初めてなら、出すのも初めてなのに。
「後で外してやるから、ちょっと付き合え」
「え?……は?」
御園生さんは、私の答えなど待たずに、店の出口に向かい歩き始めている。
「ちょっと……」
あわてて立ち上がる私の側に、店員さんが店のロゴが入った小さな袋を渡してくれる。
「先程の眼鏡をお入れしております。お買上ありがとうございます。」
にこやかに笑う店員さんに、私も笑顔を返しつつ、財布を鞄から取り出す。
「お客様、お支払は済んでおりますので」
「え?イエ、私はまだ……」
「御園生様から既に済ましていただいております。」
「え?なんで……」
御園生さんを振り返ると、彼は既に店の外に出ていた。
私はあわてて荷物を持って、店員さんにお礼を言い御園生さんを追った。