片恋スクランブル
「全ての事に納得していませんから」
慣れない様式に苦戦しつつ、料理を口に運ぶ。
不本意でしかない。
コンタクトに変えただけでなく、ゆるく巻かれた髪に、ピンクをベースに引かれたアイメイク。
淡い藤色の絹のワンピースは膝上10cmで、その上に羽織ったストールの手触りはとても柔らかくて暖かい。
高価な衣装は初めて袖を通すものばかりで。
7cmのハイヒールで、ここに来るまでに5回はつまづいた。
今までの自分なんて、どこにも存在しない。
ここに居るのは、御園生さんが作った人形だ。
「せっかく変身したんだから、普段と違うことをしたいと思わないか?」
御園生さんはメインの肉料理を口に運びつつ、私をチラリと見る。
「普段と違うこと?」
「普段行かない店で飯を食う」
「……望みはなかったですけど、今その真っ最中です」
「普段行かないバーで酒を飲むとか、」
「……お酒苦手なんです」
「普段気になっている男性に声をかけるとか、」
「…………」
咄嗟に返す言葉が出てこない。
「……ふぅん、望みは見付かったみたいだな」
御園生さんの、見透かすような視線が腹立たしい。