片恋スクランブル
「止めてください……」
拒絶の言葉なのに、それはいつしか懇願に変わる。
どうして?
この人が何を考えているのか分からない。
そして私も、どうして彼の声に胸が苦しく震えるのか。
「舞夏、俺の女になれよ」
これじゃ命令じゃない。
私は、八木さんが好きなんじゃなかったの?
僅かに残っていた理性が、八木さんの名前を思い出させてくれた。
「……私が好きなのは、あなたじゃない!」
叫ぶように言った瞬間。
御園生さんの腕の力が抜けた。
その隙を見逃さず、私は彼から飛び退いた。
「残念、もう少しでおちるところだったのに」
立ち上がり、スーツについた汚れを払いながら、御園生さんはおかしそうに笑った。
「…………最低」
それだけ言って、私はその場から全速力で走り出した。