片恋スクランブル
その集団の中に、見覚えのある顔を見つけた。
……嘘!
スーツの上着を肩に引っ掛け、白いシャツに弛めた紺地に白のストライプのネクタイが、リラックスした雰囲気を漂わせている。
あの日見た彼より、かなりラフな姿に見えた。
御園生 千里。
どうしてこんなところに彼が居るんだろう?
「マジ美味いから、食ってけ」
「社食のカレーがかよ?」
親しげな二人の声がすぐ近くで聞こえる。
思わず背を向けて、彼等から隠れるように厨房の隅へ移動した。
……八木さんと御園生さんって知り合いだったの?
驚きのあまり言葉にならない。
「おばちゃんカレー2つね!」
八木さんの声が厨房に向かって響く。
「ハイハイ……って、あれ?」
花田さんの困惑した声に、しまったと思いつつも動けなかった。
「今日も八木さんだけ、ご飯特盛だったりして!」
八木さんの隣でからかうような口調の同僚の言葉に、御園生さんが「なにそれ?」と尋ねている。
……イヤ~!今すぐあの人の口を塞ぎたい。
「ここのご飯担当のコ、八木さんにだけ微妙にご飯の量多いんですよね」
「ばぁか、その微妙ってなんだよ」
八木さんは大して気にしてない様子で。
「なんだよ、それ」
御園生さんもとりあっていない様子だった。
「あれ、いないの?ご飯のコ」
八木さんの隣の男性社員が、カウンターをのぞきこんでいる。
……どうしよう。今さら戻りづらい。
迷っているうちに、花田さんのよく響く声が私を呼んだ。