片恋スクランブル
「舞夏、」
会社の通用口を出て、歩き始めた私の背中に呼び掛ける声があった。
足を止め、振り返る。
キチンと締めたネクタイに、ピシッときまるスーツ姿。
昼間見たラフなイメージは今はない。
「……こんばんは」
他になんと言えばいいか分からず、口ごもる。
「社食のおばちゃんだったとわね」
ゆっくりと私に近付いてくる御園生さん。
「うちの会社に来ることもあるんですね」
少し後退りしてしまう。
「カレー美味かったし、また来ようかな」
「……カレー食べにわざわざ来るんですか?」
私の言葉に、御園生さんはおかしそうに笑った。
「いいんじゃないか?安くて美味いなんて最高だろ」
「普段あんな高そうなお店でフルコース食べてる人が?」
自然口調に棘が含まれてしまう。
「俺だって毎日フルコースじゃ飽きる」
御園生さんは気づいてか、フッと口元を弛ませたまま。