片恋スクランブル


「……行くだけ行けよ。この前のカッコだって悪くなかった」

「御園生さん……?」

「あれ一度きりでお蔵入りなんて勿体無いだろ……俺の金が」

無茶苦茶な言い分。

聞く必要もない。

……でも。

考えてしまった。

八木さんと映画を見ている自分を。

いつもの私じゃ、いつまでたっても映画どころか、会話だって無理だ。

でも、

あの姿なら?

八木さんの隣にいても、恥ずかしくないかな?

「……行くか?」

悔しいのに。

御園生さんに振り回されるのは嫌なのに……。

私は、頷いていた。

「俺の知り合いってことにしておくから」

隣で御園生さんが話すのを聞きながら、私はタクシーの窓から外を眺めていた。

待ち合わせの映画館迄、あと5分位といったところだろうか。

商業施設に併設された映画館は交通の便もよく、駐車場の収容数も多い。独立した形で営業されるため、平日でも訪れる客は多い。

八木さんは、多い時で週1で通っているらしかった。

先にタクシーから降りた御園生さんに手を差し出されて、戸惑う。

「ヒール、慣れてないんだろ」

「大丈夫です……ひゃっ、」

カッコよく降りたかったのに、ヒールが邪魔をして、倒れそうになった私を支えてくれたのは、ほら見ろと言わんばかりの顔をした御園生さんで。

早くもここに来たことを後悔してしまう。
< 32 / 159 >

この作品をシェア

pagetop