片恋スクランブル
「……行くだけ行けよ。この前のカッコだって悪くなかった」
「御園生さん……?」
「あれ一度きりでお蔵入りなんて勿体無いだろ……俺の金が」
無茶苦茶な言い分。
聞く必要もない。
……でも。
考えてしまった。
八木さんと映画を見ている自分を。
いつもの私じゃ、いつまでたっても映画どころか、会話だって無理だ。
でも、
あの姿なら?
八木さんの隣にいても、恥ずかしくないかな?
「……行くか?」
悔しいのに。
御園生さんに振り回されるのは嫌なのに……。
私は、頷いていた。
「俺の知り合いってことにしておくから」
隣で御園生さんが話すのを聞きながら、私はタクシーの窓から外を眺めていた。
待ち合わせの映画館迄、あと5分位といったところだろうか。
商業施設に併設された映画館は交通の便もよく、駐車場の収容数も多い。独立した形で営業されるため、平日でも訪れる客は多い。
八木さんは、多い時で週1で通っているらしかった。
先にタクシーから降りた御園生さんに手を差し出されて、戸惑う。
「ヒール、慣れてないんだろ」
「大丈夫です……ひゃっ、」
カッコよく降りたかったのに、ヒールが邪魔をして、倒れそうになった私を支えてくれたのは、ほら見ろと言わんばかりの顔をした御園生さんで。
早くもここに来たことを後悔してしまう。