片恋スクランブル

あの日の再現とばかりの姿で、八木さんに会おうとしている自分。

……これって騙してる事にならないかな。

嘘をついて、嘘の私の姿で会う……?

八木さんに……?

急に胸の辺りが苦しくなった。

締め付けられるように痛い。

「行くぞ」

「……って」

「え?」

御園生さんが足を止め、私を振り返る。

「待って。……私やっぱり行けません」

御園生さんをまっすぐに見た。

「どうした?」

「私帰ります」

御園生さんに背を向けて歩き出した。

「おい!待てよ、舞夏」

御園生さんの手が私の手首をつかむと同時に、御園生さんを呼ぶ声がした。

「悪い!待たせたな……御園生?」

「八木」

「八木さん……」

会社帰りらしく、スーツ姿だったけれど、ネクタイは外して胸元のボタンは緩めた姿で、八木さんは御園生さんに駆け寄る。

顔をあわせたくなくて、思わず御園生さんの後ろに隠れた。

「なに?取り込み中か……ってキミは……」

からかうような口調で八木さんは言った後、ふと、私へ視線を向けた。

御園生さんの肩を掴み、私の顔を覗き込む。

「あ……の?」

あまりにもジッと見いるから、私も戸惑ってしまう。

「社食のカレー担当のコだ」

八木さんが言った言葉に、私も御園生さんも、驚いて声も出ない。
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