片恋スクランブル


「お前、分かるのか?」

御園生さんが言って、私も思わず八木さんを見つめてしまった。

「あぁ、そう言えばちょっと雰囲気変わるね。眼鏡ないせいかな?」

明るく人懐こい笑顔が私に向けられていた。

「スゴいな、お前」

「なんだよ、毎日会ってりゃ覚えて当然だろ……それよか、」

今度は八木さんが私達を交互に見始めた。

「もしかして、付き合ってたり……?」

一瞬、言葉の意味がわからずキョトンとしてしまった。

先に我に返ったのは、御園生さんの方で。

「ばぁか、違うよ」

「そうなのか?デートの約束があったなら、言えばいいのに」

「違います!」

ようやく私も八木さんの誤解に気付いて、全身で否定した。

「この前、偶然会って知り合ったんだよ」

御園生さんは慌てる私とは対照的に、さらりと言ってのけた。

「そうなんだ?えと……」

「タチバナ」

すかさず御園生さんが答えた。

「タチバナさん?」

「はい。橘 舞夏と言います」

「マイカ?」

「はい。夏に舞うでマイカです」

同じ説明を、御園生さんにもしたな。珍しいのかな?呼び名。

「おい、何時からだ?」

話を割るように、御園生さんが八木さんに話し掛けた。

「あ、じきに始まる。」
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