片恋スクランブル
受付嬢の白川 美香さんが、カウンターに覗き込むようにしてこちらを見ていた。
「……白川さん?」
「カレーひとつくださいな。」
口角をあげ、首をかしげた様子は可愛らしく、ただ注文しているだけなのに吸い寄せられそうになる。
「は、はい」
お皿にご飯をよそい、花田さんに渡す。
「ねぇ。八木さんって、お酒案外弱いのよね。」
「え?」
急に話をふられて、しかもその内容の意図が分からず困惑してしまう。
「あら、知らない?この前の合コンで一緒に飲んだ時、すぐ紅くなっちゃって、可愛かったなぁ」
その場面を思い出してでもいるのか、両手を頬に当て「ほう……っ」と息をついている。
「……カレーどうぞ」
花田さんから手渡されたカレーを彼女のトレイに置いてやると彼女は穏やかな笑みを浮かべたまま、私にポツリとささやくように言った。
「社食のおばちゃんがでしゃばらないでくださいね?」
語尾は強く、反論を許さないという雰囲気を含んでいる。
返す言葉なく、彼女に圧倒されれる形でカウンターから戻る。
そして、白川さんはトレイを持って迷うことなく、八木さんたちが食事をしている場所へと向かっていった。