片恋スクランブル


「ちょっと来い」

「御園生さん?」

半ば引きずられるような形で、御園生さんに手首を握られ、フロント奥のエレベーターホールへ連れて行かれた。

「御園生さ……?」

シッと指をたて、御園生さんは私の頭抱え込むように壁際に隠れた。

一体なんだろう?

壁越しに、御園生さんが見ている方をそっと覗く。

あ……八木さん!

八木さんがエレベーター前に立っていた。

御園生さんを見上げて彼に声をかけようとした時、八木さんの影に隠れて見えなかった、人影が見えた。

白川さ……ん?

八木さんの腕に絡み付くような白川さんの細い腕が見えた。

八木さんがエレベーター横の壁に背もたれて、少し困った顔をしているのが分かった。

彼の胸に顔を埋めて幸せそうに笑っている白川さん。

それを受け入れている、八木さんの腕。

どうして?

八木さん、本当に白川さんと付き合ってるの?

頭の中疑問符で溢れてる。

でも、信じてなかった。

信じたくなかった。

八木さんの、菅谷さんへの気持ちを信じたかった。

でも、それは呆気なく壊された。


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