片恋スクランブル



「お前、今日は帰れ」

「え?」

「アイツからメールがあった。今日は会えないって」

御園生さんは携帯を開いてそのメールを見せてくれた。

『すまない。急用で会えない。  八木』

短く、素っ気ない文章だった。

「八木さん達は?……帰っちゃったんですか?」

いつの間にかいなくなった彼らの行方を御園生さんに尋ねた。

御園生さんは渋い表情で、上を指差す。

上……?

「さっき、エレベーターで上がっていった」

上って……。

「7階で止まってそのままだ」

「7階……」

「5階以上は、このホテルは客室しかない」

「客室……」

私は御園生さんの言葉を繰り返していた。

意味するところは、一つだけ。

八木さんは、白川さんとこのホテルに泊まるんだ。

「……帰ります」

ここにいても、もう意味はない。

八木さんに会わなくても、彼に聞かなくても、分かる。

二人はそういう関係なんだって。

今まで私が考えていたのは全部、私一人が願っていた勝手な妄想だって。

疎い私でも分かる。

もうこの場に1秒だっていたくなかった。

八木さん達が泊まるホテルに、私がいる意味なんてない。

また滲んでくる涙を人に見られたくなくて俯いたまま、御園生さんから……エレベーターホールから離れた。







「待て……待てよ!」



< 73 / 159 >

この作品をシェア

pagetop