片恋スクランブル
八木さん笑ってなかった。
本当に白川さんの事が好きならもっと、笑顔見られるはずだよね?
私は彼の笑顔が好きだから。
「私、好きだから……」
八木さんも、菅谷さんも。
それからいつだって、私を助けてくれる御園生さんの事も。
「……知ってるよ」
御園生さんの呟きは、なぜか少し切なげに響いた。
……?
「御園生さんはどうするんですか?」
「一度会社に戻る。タクシー呼んでやるから……」
彼はフロントにタクシーを依頼し、戻ってきた。
「御園生さん……今日はわざわざありがとうございました。」
タクシーに乗り込む前に、御園生さんにお礼を言った。
出張帰りに、ここまで付き合わせて申し訳なく思う。
「気にすんな、ここに付き合わせたのは俺だ。……お前には嫌なもん見せちまって悪かったな……」
彼の大きな手が、私の頭をなぜる。
まるで子供をあやすみたいに。
御園生さんの前で泣いちゃったし、考えてみれば恥ずかしすぎるよ……。
「じゃあな」
タクシーに乗り込んだ私に向けて、左手をヒラヒラさせる。
タクシーが動き出してからも、御園生さんはしばらくその場にたっていて、私は彼が見えなくなるまでずっと後ろを見ていた。