片恋スクランブル
ツキッと、なにかが胸に刺さる。
「嘘~、ムカつくけど、美香なら仕方ないかぁ」
「八木さんも、所詮は男だからね。美しいものが好きだよねぇ……」
彼女達の声が段々遠く、小さくなっていく気がした。
『ヤギサンモ、ショセンハ、オトコ』
……キレイな人、好きだよね。
目の前の鏡に映る自分と言えば……。
大学の頃からかけているシンプルで野暮ったくもある眼鏡。
ナチュラルメイクと言えば聞こえはいいが、コスメはファンデーションと幾つかのアイメイクと口紅だけ。
料理をするから、髪はまとめてなきゃダメだしマニキュアなんて以ての外。
女子力なんて、0に近い。
……バカみたい。
情けなく思えて、鏡を見ていられなかった。
俯く私の後ろで、彼女達の話は続いている。
「一次会何時からだっけ?」
「んー、19:00からSAKURAで、でしょ?」
「まだ1時間あるし、どうする?」
メイクを終えた彼女達から、少しきつめの香水が香る。
ローズ、ミモザ、ラベンダー、ベルガモットにムスク。
一人一人の香水が混ざりあってなんとも言えない動物的な臭いがする。
彼女達が出ていった後も、彼女達が残した匂いと、会話が私の頭の中でグルグルと回った。
「気分悪い……」
同じ女性の匂いに酔うなんて、情けない話。
しばらく動けず、台の上に突っ伏していた。