片恋スクランブル
「どうぞ」
笑顔と共に差し出されたカクテルグラスの中は、3層にグラデーションされたオレンジ系の液体が揺れていた。
「柑橘系の果物で作ってあります」
「可愛い……」
菅谷さんが来たら、他のも一緒に飲みたいな。
カクテルを少しずつ飲んでみると、スッキリとした飲み口で、飲んだあと、舌に少し甘さを感じた。
「美味しい……」
すっかり気に入って、1杯、2杯と飲んでいくうちに顔がポカポカ火照りだした。
ジュースみたいなのに、やっぱりお酒なんだと気付かされる。
「冷たいお水、ご用意しましょうか?」
バーテンダーに声をかけられてきちんと返事できたのかも分からない呆けた頭で、目の前に出されたお水を飲む。
ヤバイな。
酔っぱらってしまった……。
……ガチャン!
急に響いたガラス製品の割れる音。
私……じゃないよね?
薄暗い辺りを見回した時、同じカウンターの隅に、突っ伏している男の人がいるのが分かった。
どうやらその人がグラスを落としたらしかったけど、本人は酷く酔っている様子で、割れたグラスの方に見向きもしなかった。
若いバーテンダーに声をかけられ、顔を上げた時男の人の顔が見えた。
「八木さん!?」
思わず声をあげてしまい、あわてて口を押さえた。